記憶術について

TLTから学ぶ記憶のメカニズムと人間の不思議

記憶術について

先ほど話してきたドーパミンの話しは一部の人は、心構えの問題だと受け取ったかも知れません。比較的TLTのような実際の脳科学に基づいた意見なのですが、あまり実用的に感じられなかった方もいるかもしれません。そこでここではもう少しだけ実用的な記憶術について紹介していきたいと思います。この記憶術とは大量の情報を急速に長期記憶するための技術で、ある意味では「ワーキングメモリ」といった概念に縛られる物の効果的に記憶を保つ為の技術として非常に優秀なものになっています。

それでは、どのようにしてより多くの情報を急速に長期に記憶すればいいのかについて、見ていきましょう。

記憶術の歴史

ほとんどの場合、西洋古典において記憶術は、修辞学の一部門にあったもので、決してそれ以上の物ではありませんでした。2500年前に古代ギリシアのシモニデスが開祖とされており、古代ローマの元老院などでは、メモを使用して弁論することが認められていなかったという高いハードルもあってか、この技術が発展して行ったのです。このシモニデスの手記は『ヘレンニウスへ』という紀元前86年から82年にくらいに書かれた書物に記載されています。

ちなみに古代ギリシャではギリシア神話の記憶の女神であるムネーモシュネーからとって、この記憶術をmnemonicと呼んでいたそうです。これは「記憶」からの派生語となっていますが、根本がムネーモシュネーですので、派生前の言葉もmnemonikosと言います。

その後古代ギリシアの記憶術は、中世ヨーロッパに受け継がれることになり、修道士や神学者等が聖書やその他の書物をほとんどまるまる記憶するために用いられていきました。当時は紙が貴重だった上に、印刷技術も未発達であったことから、卓越した記憶力を養う事は教養人の必要条件だったのです。

記憶術の種類

記憶術というものは、大きく2つの系統に分類できます。一つは、純粋に記憶のコツのようなものによって記憶の効率を上げる方法と、もう一つは、人間の能力を向上させることによって記憶力を向上させる方法です。

実際に前者の例として、シモニデスによってなされたものは、宴の座席とそこに座っていた人間とを対応させて記憶する「座の方法」というもので、いわゆる現在でもやる人の多い「場所法」というものでした。また、そこから派生した、物を掛けるためのフック(鈎)を想像して、これに記憶すべきものを対応させる「フックの方法」といったイマジネーションを利用した方法がその例として上げられるようになっています。他にも様々な方法がありますが、特に古代の間に用いられていた方法の中では比較的科学的信憑性があるのがその二つになっています。

また後者の例としては、視野の拡大や、右脳の活性化等による方法や、記憶力の向上によい食品や生活スタイルの追求等があります。この中には学問的に証明されていない主張も多くしばしばニセ科学になりやすい特徴があり、うさんくさい健康食品を売りつけられたりと、ある種のオカルトじみたところがあったりします。

記憶術の例

場所法

場所(自宅や実際にある場所でも、架空の場所でも良く、体の部位に配置するメソッドもある)を思い浮かべ、そこに記憶したい対象を置く方法です。「記憶の宮殿」「ジャーニー法」「基礎結合法」とも呼ばれています。記憶したい対象を空間に並べていきます。人間はたとえるなら他人の家に行ったケースでも、どこに何があったかは比較的よく覚えているという傾向が高く、それは比較的長期的な記憶となる可能性が高くなっています。つまりその性質を利用するということです。記憶したい対象が抽象的なもののケースは、置換法を使い、イメージしやすいターゲットに変換してから記憶します。

この方法は海馬にある場所ニューロンの特性を利用しています。場所ニューロンは名前の通り、場所の記憶を司ります。場所の記憶は動物にとって重要なため、長期記憶に保存されやすい性質を持っています。

その長所としては記憶の保持期間が他の記憶術と比較して著しく長いことがあるという一方で、欠点としては、一つの場所にむちゃくちゃに殆どの情報を詰め込みすぎると「部屋が散らかるのと同様に」混乱をきたすため、わずかな情報しか入れられないということが上げられます。その為、充分な情報を詰め込めるのみの場所の確保に手間がかかるということです。世界記憶力選手権の世界トップ選手は数百個程度のイメージを競技中に記憶しています。

階層枠組みをなしているものを記憶するケースは、何フロアもあって、フロア内も部屋にわかれているものを場所に使うと記憶できます。この手法は「鈴なり式」とも呼ばれています。場所法は、少なくとも2500年前にシモニデスの時代から知られています。

物語法

物語を考え、その話に記憶したい対象を登場させる方法です。記憶したい項目を時間的に配列する方法です。

頭文字法

記憶したい対象の頭文字を取り出して覚える方法です。

置換法

人間は抽象的なものより具体的で視覚的にイメージしやすい物の方が覚えやすいので、数字等を別なものに置き換える方法がこの置換法です。

人-行動-対象システム

これはPAO(Person-Action-Object)System と呼ばれているもので、まず、2桁(可能な人は3桁)の数字から、人・行動・対象への変換表を覚えます。100×3個、合計300個覚えるのです。すると、6桁の数字は、1組の人・行動・ターゲットになり、イメージしやすくなります。これに場所法等を併用し、長い数列を記憶します。人・行動・対象への変換表はなるべくインパクトがあって、印象に残りやすく、かつ、相互に混同しにくいものを選ぶと覚えやすくなります。

たとえば、トランプのカードを覚えるケースも、52枚のカードそれぞれに、人・行動・対象への変換表を覚えると、1つのイメージで3枚のカードが記憶でき、17イメージ+1枚で1組のトランプの順番を覚えられます。17イメージ+1枚を場所法等で記憶します。2011年現在、世界記憶力選手権の世界記録では1組のトランプを21.19秒で記憶しています。

数字子音置換法

メジャー記憶術ともよばれます。数字を子音に置き換える方法です。子音と子音の間に適当な母音を補う。英語等のヨーロッパ系の言語で用いられます。数列を単語に置き換えられます。

  • 0 → s, c(サ行の音), z
  • 1 → t, d, th
  • 2 → n
  • 3 → m
  • 4 → r
  • 5 → l
  • 6 → sh, ch, j, g(ヂャ行の音)
  • 7 → k, c(カ行の音), g(ガ行の音), ng
  • 8 → f, v
  • 9 → p, b

数字仮名置換法

数字を仮名に置き換える方法です。数字子音置換法を日本語用に改良したもの。

  • 1 → あ行 → あ、い、う、え、お
  • 2 → か行 → か、き、く、け、こ
  • 3 → さ行 → さ、し、す、せ、そ
  • 4 → た行 → た、ち、つ、て、と
  • 5 → な行 → な、に、ぬ、ね、の
  • 6 → は行 → は、ひ、ふ、へ、ほ
  • 7 → ま行 → ま、み、む、め、も
  • 8 → や行 → や、ゆ、よ
  • 9 → ら行 → ら、り、る、れ、ろ
  • 0 → わ行 → わ、ん、(ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽ)

0がわ行だけでは少ないので、ぱ行も使う。

語呂合わせ

数字を仮名に置き換える方法です。数字子音置換法なんかよりも簡単に習得できるが、数字に対処する文字が少ないので、適当な文を作るのが大変ですが、日本語のケース、その自由度が高いので、一般に広く、たとえば電話番号等を憶えるのにも使われます。音読みと外来語とその変形をカタカナ、訓読みとその変形をひらがなで表す。語呂合わせも参照。

  • 1 → イチ、イ、ひと、ひ
  • 2 → ニ、ふた、ふ
  • 3 → サン、サ、み
  • 4 → シ、よ
  • 5 → ゴ、コ、いつ
  • 6 → ロク、ロ、む
  • 7→ シチ、なな、な
  • 8 → ハチ、ハ、パ、バ、や
  • 9 → キュウ、キュ、ク、ここの、ここ、こ
  • 0 → レイ、レ、ゼロ、ゼ、まる、わ、ん、オー、オ
  • 10 → ジュウ、ジュ、とお、と
  • 100 → ヒャク、ヒャ、もも、も
  • 1000 → セン、セ、ち
  • 10000 → マン、よろず、よろ

0をアルファベットのOに見立ててオー、オとしたことも見受けることができます。 また1をアルファベットのIに見立てることもあります。

片手指法

5の項目を片手の指に対応させて覚える方法です。

  • 左手小指 → 1
  • 左手薬指 → 2
  • 左手中指 → 3
  • 左手人差し指 → 4
  • 左手親指 → 5

両手指法

10の項目を両手の指に対応させて覚える方法です。

  • 左手小指 → 1
  • 左手薬指 → 2
  • 左手中指 → 3
  • 左手人差し指 → 4
  • 左手親指 → 5
  • 右手親指 → 6
  • 右手人差し指 → 7
  • 右手中指 → 8
  • 右手薬指 → 9
  • 右手小指 → 10

時計法

12の項目を時計の文字盤に対応させて覚える方法です。

  • 1時 → 1
  • 2時 → 2
  • 3時 → 3
  • 4時 → 4
  • 5時 → 5
  • 6時 → 6
  • 7時 → 7
  • 8時 → 8
  • 9時 → 9
  • 10時 → 10
  • 11時 → 11
  • 12時 → 12

音韻法

数字をその数字と韻を踏む単語に置き換える方法です。

  • 1 → one → sun,fun,gun,nun
  • 2 → two → shoe,Jew
  • 3 → three → tree,bee,key,tea
  • 4 → four → door,core
  • 5 → five → live
  • 6 → six → sticks
  • 7 → seven → heaven
  • 8 → eight → gate,date,fate,mate
  • 9 → nine → line,sign,pine,wine
  • 10 → ten → pen,men,hen

形態法

数字をその数字に似た形に置き換える方法です。

  • 1 → 鉛筆、煙突
  • 2 → アヒル
  • 3 → 耳、唇
  • 4 → ヨット
  • 5 → 鍵
  • 6 → さくらんぼ
  • 7 → がけ、鎌
  • 8 → だるま
  • 9 → オタマジャクシ
  • 0 → 卵

どの種類でも共通するもの

記憶術にとって大事な概念の一つに「分割」と「組み立て」というものがあります。これは短期記憶が7±2の法則にのっとっており、あまり多すぎる情報を一度に詰め込むとそれに対処できないようになっているのです。それゆえに膨大な情報を記憶する際にはそれをいくつかの短い断片に「分割」して、各自にそれを記憶し、後にそれをつなげる「組み立て」を行うことで記憶を完成させて行くことになります。

その組み立て方法は様々な物があり、特に土地法などでは、長期記憶として残りやすい場所の記憶としてあらゆる事柄を記憶しておりますが、他にも短時間で多くの物を覚えるための方法もあったりします。自分の使い勝手の良い物を自分で上手に使い分ける事が出来るようになることが重要であると思われます。